相続にあたり、相続を放棄するという事を耳にされたことがある方は多くいらっしゃるでしょう。相続放棄とは、相続人が、相続の開始があったことを知った日から3カ月以内に家庭裁判所に申述書を提出することによってはじめて法的に認められることになります。
従って、親族の前で「財産はいらない。相続には関わりません。」と言っただけでは相続を放棄したことにはならないのです。
一般的に相続放棄は、亡くなられた方の預貯金・不動産等の資産よりも、借金等の負債が多い場合に行われます。しかし、必ずしもそうではなく、「自分で築いた財産がたくさんあるから、もう財産はいらない。」等の理由で放棄されることもあります。この様な場合、少し注意が必要です。
相続を放棄した場合でも、生命保険金等の受取人になっている場合は、保険金が支払われることになります。これは、民法上は、生命保険金等は相続財産ではないからです。他方で、相続税法上、生命保険金等は、相続財産とみなされて課税対象となります。
相続税法においては、生命保険金等については非課税規定があり、法定相続人の数×500万円の財産をないものとして考えてくれるのです。しかし、この非課税規定は、相続放棄をした場合には適用されません。
ほんの一例ですが、相続人が子3人、相続財産が1億円(うち生命保険金1,500万円)の場場合について考えてみましょう。
◆相続放棄をしなかった場合は
(1億円 - 生命保険の非課税額1,500万円)-基礎控除額8,000万円となり
相続財産500万円に対して50万円の相続税が課せられることになります。
◆相続人の1人が放棄をした場合は
(1億円 - 保険金の非課税額 1,000万円)-基礎控除額8,000万円となり
相続財産1,000万円に対して100万円の相続税が課せられることになります。
相続を放棄した場合は、しなかった場合と比べて50万円の納税額が多くなります。
相続税は累進課税ですから、相続財産が多ければ多いほどこの差に開きが出てきます。
他の相続人に財産を譲ろうとした行為が、本来払わなくてもよい税金を納める結果となるのです。場合によっては、放棄するのではなく遺産分割の際、財産を取得しないという事で対応することも選択肢の一つとして考えられます。
平成27年からは、基礎控除額が引き下げられることになるため、相続税の課税対象者も増加すると思われます。相続税対策について考えるときは、お手持ちの不動産や、預貯金等のみならず、生命保険金等の契約内容についても確認する事が必要でしょう。