役員給与は利益調整による租税回避に用いられやすいため、法人税法上厳しい損金算入要件が定められています。
その中でも中小企業で見かけることが多いのが、「定期同額給与」です。
これは支給額が毎月同額ならば(よほど高くない限り)損金算入OKよ、という規定です。
毎月同額ということは何があっても変えられないのかと言えば、そういうわけでもなく、いくつかのタイミングでの改定(金額の変更)が認められてはいます。
(1)期首から3ヶ月以内
(2)役員の職制上の地位の変更等(臨時改定事由)
(3)著しい経営状況の悪化(業績悪化改定事由) ※減額に限る
以上の3つのどれかに当てはまれば、改定前後の全額が税金計算上の費用つまり損金として認められます。
逆に当てはまらなければ、改定前後の上乗せ部分(減額したときは当初が上乗せ支給だったと考える)の金額が損金算入されません。
(1)は数字で分かりやすいのですが(ex.4月スタートの会社であれば6月末までに株主総会や取締役会で決議すればよい)、(2)と(3)が結構あいまいな要件なので実務上判断に困るところです。
特に(3)は経営上のピンチなわけですから、税金を考えて下げられないという事態は避けなければなりません。
国税庁がH20.12に公表した「役員給与に関するQ&A」によれば、
①財務諸表の数値が相当程度悪化した又は倒産の危機に瀕している。
②第三者である利害関係者(株主、債権者、取引先等)との関係上、役員給与の額を減額せざるを得ない事情が生じている。
のどちらかに当てはまれば「業績悪化改定事由」として認められるようです。
②については取引銀行との協議や改善計画の策定・開示など第三者が絡んだ客観的な事実が求められるので、なかなかハードルが高いように思われます。
そこで①。倒産の危機は同じくハードルが高すぎるとして、前段部分はどうでしょうか。
これに関して、少し前に「業績悪化改定事由」に関する最初の裁決事例が公表されました。
認められるための要件というのとは逆ですが、一つの参考数値にはなると思いますので要約してご紹介します。
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H23.1.25裁決(国税不服審判所)
【経緯】
審査請求人たる法人は、決算月の2か月前において経常利益が対前年比で6%減少している状況から、代表取締役の定期同額給与を事業年度の中途において減額改定したうえで申告した。
その後、税務署から法人税の増額更正処分があった。
【争点】
経常利益が対前年比6%減少したことは、業績悪化改定事由に該当するか否か。
【裁決】
業績悪化改定事由があるとは認められない。
よって、減額前の各月の支給額のうち減額後の各月の支給額を超える部分の金額は損金の額に算入されない。
【理由】
①業績悪化改定事由とは、法人の経営状況の著しい悪化その他これに類する理由によりやむを得ず役員給与の額を減額せざるを得ない事情があることをいう。
②本件事業年度の売上高、経常利益は過去の業績と比べて何ら遜色がない。
(経常利益は前年比6%減ではあるものの過去6年で2番目、売上高は最高だった)
③請求人が設定した業務目標を達成できなかったことが減額の理由である。
(経常利益が前年実績を上回ることを目標として掲げていた。決算2か月前の月次P/Lの経常利益が対前年比で6%減少したことから代表者の経営責任を示すとの本人の申出に基づき減額があったことが取締役会の議事録や関係者の供述から明らかにされている)
〔参考〕法人税法基本通達9-2-13
経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する事由とは~(中略)~、法人の一時的な資金繰りの都合や単に業績目標値に達しなかったことなどはこれに含まれないことに留意する。
以上より、本件事業年度の中途である決算月2か月前の時点において経営の状況の著しい悪化や業績悪化が原因でやむを得ず役員給与を減額せざるを得ない事情にあったと認めることはできない。
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少なくとも経常利益6%程度の減少では「財務諸表の数値が相当程度悪化した」とは認められないようです。
よって、こういったケースでは「倒産の危機に瀕している」や第三者との客観的な事実が必要となってきます。