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100%子会社の欠損金の引継ぎ

2011年09月14日
税務・会計情報

先般に引き続き、グループ法人税制関連の記事を書きたいと思います。

今回は「完全支配関係のある子法人が残余財産確定した場合の欠損金の引継ぎ」について紹介します。

前回書いたように、昨年改正された法人税の計算では、完全支配関係のある企業グループ全体を「一企業」として捉えるという基本的スタンスに切り替わりました。
そこで、グループ内の企業が解散して残余財産が確定(≒清算結了)した場合には未使用の繰越欠損金(過去7年の青色欠損金&災害損失金)をグループ内の一定の企業で引き継いで使えるようになりました。

引き継ぐ金額は所有割合に応じて各法人で按分するため、上記「一定の企業」とは、完全支配関係グループ内の法人で、かつ、解散法人の株式を1株でも「直接」所有している法人です。

よって、前回紹介した寄附金損金不算入(受贈益益金不算入)の場合と同様、個人オーナーが複数会社を100%所有するケースでは結果的に欠損金の引継ぎを受けることができません。
(∵株主である個人は欠損金を引き継げない。また、兄弟会社相互の所有割合はゼロなので、引き継ぐ欠損金額もゼロ。)

 

解散や清算結了する会社は債務超過の場合が多く、繰越欠損金も使い切れない場合が多いため、採算の見込めない100%子会社の整理などの場面において一見、納税者有利な改正といえます。
ただし、引継ぐ側においては以下の点に注意しなければなりません。

特に(2)は要注意事項です。

(1)支配前の欠損金は引き継げない。
当たり前といえば当たり前ですが、これができてしまうと、もともと多額の欠損金のある休眠会社の株を全部買ってきてすぐに…(以下略)なんてことも可能となってしまいます。
そのような租税回避行為を防ぐ目的で、支配関係ができてから生じた欠損金に限って引き継げることとなっています。
なお、ここでいう「支配関係」とは発行済株式等の50%超を直接又は間接に保有する関係をいい、完全支配関係(100%関係)よりも緩いものです。

ただ、これにも例外があって、支配関係が残余財産確定日以前5年以上継続していれば引継制限の適用はなく丸々7年分の繰越欠損金が引き継げます。(設立時から保有している場合は5年未満でもOK)
基本的に、租税回避目的の支配か否かのラインは5年ということになります。

(2)子会社等株式の消滅損失は損金算入されない。

これは、欠損金の引継ぎ制度そのものの注意点とは次元が違うのかもしれませんが、この制度改正の最も有り難くない「おまけ」あるいは「副作用」と言えるものです。

単純に考えて、子会社が清算・消滅した場合はその株式は無価値となり、その簿価相当は切捨てられて当期の損失として損金算入されるはずです。言ってみれば固定資産の除却損のようなイメージであり、従来はこのような取扱いが当然のように認められていました。

しかし、グループ税制が適用されることとなってからこの取扱いが完全に認められなくなっています。すなわち、子会社株式消滅損は損金の額に算入されません。

会計上は、当該株式を切り捨てて特別損失等で計上するしかないですが、税務上で加算調整されることとなります。

会計や税務にある程度精通していないと「え?なんで?」という感じになりますが、発行法人の清算に伴う保有株式の消滅は、法人税法上、発行法人への譲渡と考えられていて、完全支配グループ内での発行法人への株式の譲渡については金額の大小を問わず損益は発生させない取扱いとなっているのです。
詳しくは説明しませんが、これは「みなし配当を利用した租税回避」を防止するために設けられたものであり、「譲渡損益調整資産の損益の繰延」とは別物です。

また、譲渡損益相当額は資本金等の額で充当されます。

以上が「完全支配関係のある子法人が残余財産確定した場合の欠損金の引継ぎ」の概要です。

上記のうち(2)は欠損金の引継ぎ制度と表裏一体のデメリット部分ですので、子会社の整理にあたっては有利不利を比較し、場合によっては「100%外し」等の対策を講じる必要があるのではないかと考えます。

先般紹介した「寄附金の損金不算入、受贈益の益金不算入」も含めて、グループ法人税制の導入による影響は様々な局面に現れますので、個別の制度だけを考えず大局的にどのような組織体系等が貴社グループにとって望ましいのかを比較検討することが必要です。そして検討・決断するうえで不明な点がある場合は、積極的にお近くの税理士に相談してみてはいかがでしょうか。